『アニメ文化外交』
2009-05-18


2009/05/18 當山日出夫

櫻井孝昌.『アニメ文化外交』(ちくま新書).筑摩書房.2009

おそらく「アニメ」関係の方向からは、多数のブログ記事などが書かれるであろうから、あえて、このことには触れない。

現在の世界におけるアニメの流通は、インターネット(正規の著作権処理なし)にあることを、筆者は指摘する。あるいは、海賊版DVDである。だが、問題は、このこと自体を問題視して、何も解決しないことに自覚的であることである。

オーソドックスな著作権法の規範意識からは、無法地帯とでもいうべきインターネットと海賊版DVDについて、筆者はこう記す。

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いずれにしても、現状を嘆いていても、誰か他人のせいにしていても、何が前に進むわけではない。(p.214)

社会基盤や時代自体が大きく変わってしまったなかで、以前の体制を根拠に今を非難しているだけでは、地盤沈下が進むだけだと思う。(p.215)

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ここでの「アニメ」を、「人文学」「デジタル化された資料」に置き換えてみれば、今の、DH(デジタル・ヒューマニティーズ、人文情報学)の課題にそっくりあてはまる。いったんデジタル化されてしまえば、もはや国境もなければ、コントロールもきかない。

だが、そのなかで、一縷ののぞみを見出すとすると、

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私は重要な解決策として、「ブランド化」とクリエイターへの「敬意」の形成があると思っている。言いかえれば、日本のDVDの正規版を持つことのステイタスを高めること、世界のファンがそこだけはしっかりと共有している。”日本のアニメは質が高い”という思いを支えるクリエイターの創作行為がいかに大変なことであるかを知ってもらうこととも言える。(p.176)

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「井戸の水を飲むとき、井戸を掘った人のことを忘れてはいけない」という。まさに、デジタルコンテンツもそうでなければならない。国会図書館のデジタルライブラリ構想をはじめ、これからの社会は、デジタルコンテンツなしにはなりたたない。また、人文学研究も、デジタル化資料なしには成立しない。

ある価値観からすれば、もはや、インターネット上のデータはタダ(無料)である。だが、無償であることとは、そのコンテンツの制作にたずさわった人の努力を無にするものではない。それを発案し、たずさわっている多くの人々に対する敬意があるからこそ、幾多の「オープンソース」のプロジェクトがなりたつ。

ややもすれば、無料/有料、いずれかの方向に議論が流れがちである。絶対に無償でなければならないという理念をかかげる人もいれば、逆に、有料コンテンツビジネスを考えるひともいる。

このような議論のなかで、コンテンツ制作者への敬意を忘れてはならない。これこそが、将来のネット上の学術リソースの有効活用のため、最も必要なものである。

當山日出夫(とうやまひでお)

[読書]
[デジタル・ヒューマニティーズ]

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