桜木紫乃『起終点駅 ターミナル』
2016-12-17


2016-12-17 當山日出夫

桜木紫乃.『起終点駅 ターミナル』(小学館文庫).小学館.2015 (原著 小学館.2012 文庫化にあたり改稿)
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ネットでこの本を検索してみると、多くのHPがヒットする。映画化されているとのこと。(私は、この映画は見ていない。)

やはり、桜木紫乃は、北海道を舞台にした短編、それも、どこかで人生に行き詰まりを感じているような、世の中の片隅の人びとを描いた作品がいい。この短編集も、まさに北海道を描いている。

文庫本の解説を読むと、雑誌連載のときのタイトルは「無縁」であったとある。なるほど、と思うタイトルである。

この短編集に出てくる人物は、なにがしかの意味で、今日の「無縁社会」を生きている、あるいは、そのように生きざるをえないという人びと。しかも、社会の表舞台で活躍するというのではなく、市井にひっそりと、ささやかに、暮らしている人びと。

表題作「起終点駅」の主人公、鷲田完治は、釧路の街の弁護士。しかも、国選の仕事しかしないという生き方を自ら選んでいる。

「完治は妻と子供に生活費を送り続けるために、釧路の街で弁護士になった。釧路を選んだ理由は、友人も知人もいない街だったからだ。」(p.105)

「酒も煙草もやらない生活は、料理と衛星放送の映画が埋めた。他人と関わらずに済み、かけようと思えばいくらでも手間暇のかかる趣味を得て、完治の生活はこの街を霧のように漂っている。」(p.111)

まさに「無縁」をもとめて生きる人間の生き方である。

だが、「無縁」であるからそこに救いが無いかといえば、そうではない。最後には、そのような生き方を選んだ人間にも、充足するときがやってくる。決して幸福とはいえないかもしれないが、逆に、不幸で惨め、というわけでもない。上記の引用のように「無縁」のなかにただよっている、しかし、なにがしかそれでみたされている人生がある。

それが、北海道にうまれ、そこに生きる人間の生き方、そして、それは、まさに現代という時代を生きる人間の生き方として、描かれている。

桜木紫乃の小説、短編集としては、おすすめとしておきたい。

[文学]

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