『銀河鉄道の父』門井慶喜
2018-02-16


2018-02-16 當山日出夫(とうやまひでお)

門井慶喜.『銀河鉄道の父』.講談社.2017
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第158回の直木賞受賞作。読んでみることにした。宮沢賢治の父のことを描いた作品ということで、興味がわいた。ちょうど、『宮沢賢治』(吉本隆明.ちくま学芸文庫)を、読み始めていたところでもあった。

ただ、これは、あくまでも〈小説〉として描いた、宮沢賢治と、その父である。宮沢賢治の評伝として読んではいけないだろう。気楽に読めばいい。そして、そのように読める。

父と子の物語である。実直に質屋をいとなむ父親とその一族。そのなかにあって、その当時としては高学歴の道を歩むことになる子ども、賢治。その生き方の対比が、主に父親の視点から語られる。だが、ここには、深刻な親子の生き方の断絶というものがない。父親は、あくまで慈愛のまなざしをもっている。また、賢治の方でもそれに答えている。

この作品には、あまり文学者としての宮沢賢治の姿は出てこない。ただ、勉強がしたい、地域の人につくしたいという、真面目な青年の姿である。

また、宮沢賢治を論じるとき大きく問題になる法華経信仰の問題、そして、父の信仰(浄土真宗)との対立も、そう深刻なものとしてはあつかわれていない。

作中、印象的なのは、妹、トシの死の場面である。これは、宮沢賢治の「永訣の朝」で知られている。

たまたま、その子どもが宮沢賢治という名の残る文学者であった。だが、このような父と子の物語は、大正時代の地方にあっては、そんなに珍しいものではなかったろう。実直に家業にはげむ親、勉学への志を持つ子ども、その間にある対立、また、通い合う心情。そして、病気。おそらく、どこにでもあり得たであろうような、家庭の姿を描いている。たまたま、この小説の場合、子どもが宮沢賢治という著名な文学者であったということにすぎない。

大正時代、日本のどこにでもあり得た、父と子、家庭の物語として、この作品は読まれればよいのだと思う。

[文学]

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