2018-12-17 當山日出夫(とうやまひでお)
高村薫.『冷血』(上・下)(新潮文庫).新潮社.2018 (毎日新聞社.2012)
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『冷血』というタイトルは、当然ながらカポーティの『冷血』をふまえている。カポーティの本を買って、読もうかと思っていたとき(再読になる)、こちらの新潮文庫版の高村薫『冷血』(上・下)が出た。これを買って読もうとしていたとき、既に書いたように、ふと思い立って、『失われた時を求めて』(岩波文庫版)を読み出した。岩波文庫版の12巻を読んで、集英社文庫版の2巻も読んで、ようやく、高村薫『冷血』を読んだという次第。
これも再読である。以前に、毎日新聞社版で出たのを買って読んだ。その時の印象としては、特に前半の犯人たちの犯行にいたる過程の描写が強く印象に残っている。今回、新潮文庫版で、改めて読んでみて、その感想にかわりはない。パチスロの擬音の描写が、読後感に残る。
この作品、上・下に分かれていて、上巻に第一章「事件」、第二章「警察」、下巻に第三章「個々の生、または死」を収める。まずは、上巻から。
上巻「事件」「警察」を読む限りの印象としては、これはすぐれた犯罪小説であり、警察小説である。広義にミステリといえるジャンルに入ってもおかしくはない。
「事件」の章における、犯人たちの描写、きわめてリアルで緻密な文章で、その犯行がつづられる。だが、肝心の「動機」というものが見えてこない。この犯行にいたる「動機」ということが、この『冷血』という作品の、主要なテーマである。犯人たちの心のうちに入り込んで描写はあるのだが、メインとなる事件……歯科医一家四人殺人事件……の顛末については、語っていない。
そして、「警察」の章になると、合田雄一郎が登場する。高村薫の作品では、おなじみの刑事である。この章は、すぐれた警察小説として読める。事件の発覚、捜査、証拠集め、犯人の認定、逮捕……この一連の流れが、警察の視点から描かれる。まことにリアルな警察の捜査を描いている。
上巻で、犯人が逮捕される。普通の犯罪ミステリなら、ここで終わることになる。だが、そこで終わっていないのが、高村薫の作品である。下巻になって、その事件の様相(強いていえば「真相」ではない)が語られることになる。(つづく)
追記 2018-12-20
この続きは、
やまもも書斎記 2018年12月20日
『冷血』高村薫(その二)
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