『向田邦子ベスト・エッセイ』向田和子(編)
2020-04-10


2020-04-10 當山日出夫(とうやまひでお)

禺画像]

向田和子(編).『向田邦子ベスト・エッセイ』(ちくま文庫).筑摩書房.2020
[URL]

私が向田邦子のエッセイを読んだのは、学生のころだったろうかと覚えている。そのころ、東京で一人住まいをしていて、テレビを持っていなかったので、その脚本のドラマはほとんど見ていない。私にとって、向田邦子は、あくまでもエッセイストである。

最初に読んだ本は、『父の詫び状』だったかと思う。それから、エッセイ集が文庫本で刊行になるたびに買って読んでいった。そのほとんどは読んでいるだろうか。

探してみると、その多くの本は、今でも刊行されているようだ。それらの本を順番に読んでいってもいいかなと思っていたところに、この本が刊行になった。タイトルのとおり、向田邦子のエッセイをよりすぐったものである。

いくつかのテーマに沿って分類して編集してある。

家族
食いしんぼう
犬と猫とライオン
こだわりの品

仕事
私というひと

巻頭におかれているのは、「父の詫び状」である。そして、テーマごとに代表的なエッセイが収録されている。読みながら……ああこの文章は読んだことがあるな、というものもあり、逆に、記憶にある文章で採録されていないものもあったりであるが……ともかく、そのエッセイストとしての仕事の全貌を俯瞰できる編集になっている。

私としては、猫の話しをもう少し入れてあってもいいような気がする。独身を通した向田邦子だが、ホームドラマの脚本を書いている。猫を見ていると、それで人間のことが分かる……このようなことを、どこかで書いていたと覚えている。

読んでいって、どれもある意味では自己主張の強い内容の文章である。しかし、それが、一歩さがった位置から語られる。そして、どの文章も、ことばづかいが、きわめて丁寧である。このあたりのことを、解説を書いている角田光代は、「含羞」ということばで表現している。

このようなエッセイ集を編集するとき、冒頭に何をおくか……これは「父の詫び状」をもってきている、これは納得できる。だが、さて、終わりをどうすか気になって読んでみると、なるほど、という編集になっている。

それにしても、このエッセイが描いている作者の子ども時代は、戦前のことになる。時代の流れからすれば、かなり過去のことになる。しかし、読んでいて、その古さを感じさせない。これは、テレビ脚本家として仕事をしてきた作者の、人間を見る目の確かさに裏付けられているからなのであろうと思う。向田邦子のエッセイは、これからも読まれ続けていくものであるにちがない。

2020年3月26日記
[文学]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット