2020-12-12 當山日出夫(とうやまひでお)
太宰治.『地図−初期作品集−』(新潮文庫).新潮社.2009
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続きである。
やまもも書斎記 2020年12月10日
『もの思う葦』太宰治/新潮文庫
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新潮文庫で出ている太宰治の作品を読んでみようと思って、ここしばらく集中的に読んできた。最後になったのが、『地図』である。これは、太宰治の最初の作品集『晩年』にいたるまでの、習作とでもいうべき作品を収録したもの。中学当時の文芸同人誌に掲載された作品などを集めてある。
これは、新潮文庫の編集方針としては、異例のことだろうと思う。特定の作家の、まだ若いときの文芸同人誌に掲載されたような作品……その文学史的評価については、読む価値はあるといえるが、「小説」としては未熟である……を、このような形で刊行するのは、他に例がないのではないだろうか。
新潮社のこの本のHPには、「生誕100年記念出版」とある。そのような事情でもない限り、普通はこのような作品まで、文庫本で出るということはない。(といって、今、文庫で出ている他の作家の作品が無名のころの太宰治より優れているという意味ではないが。)
ここに収録されている作品を読んで思うことは、太宰治(津島修治)は、おそらくは、意図して「太宰治」になっていったのだろうということである。それは、故郷で高校をおえ、東京に出て大学生になって、波乱に満ちた人生をスタートさせるなかで形成されていったものであろう。
普通は、太宰治を初期の作品から読むとすると『晩年』から読み始める。しかし、新潮文庫で、『地図』のような初期作品集が出ているおかげで、作家「太宰治」になる以前の、津島修治がどんな文学を書いていたか、把握することができる。これは、貴重な出版といえるだろう。
ところで、新潮文庫版に限って太宰治を読んできたわけであるが、おそらく、普通に読める作品のほとんどは読んだことになるだろうか。これ以上読もうとするならば、「全集」を見なければならなくなる。
一般に、デカダンスの作家、無頼派などといわれている太宰治であるが、その文学の世界は、実に多彩で芳醇である。特に、中期とされる戦時中の作品に傑作が多い。また、戦後になって、人びとが、今自分たちの生きている時代が「戦後」という時代なのだと認識したのは、太宰治の文学によるところが大きいと感じるところがある。文学によって時代を認識することになるのである。
さて、太宰治を読んだ次は誰を読むことにしようか。新潮文庫に限って、今刊行されているもので読んでみるというのも、一つの割りきった読書かと思う。谷崎潤一郎とか川端康成とか、それから、最近の話題としては三島由紀夫がある。代表的な作品は、若いときに手にとったり、最近でも、読んだりしているのだが、集中的に読むということはしてきていない。これらの作家についても、順次読んでいくことにしたい。
2020年12月6日記
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