2021-05-01 當山日出夫(とうやまひでお)
山田風太郎.『エドの舞踏会』(ちくま文庫.山田風太郎明治小説全集8).筑摩書房.1997(文藝春秋.1993)
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続きである。
やまもも書斎記 2021年4月22日
『明治断頭台』山田風太郎
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収録するのは、次の短篇。
井上馨夫人
伊藤博文夫人
山県有朋夫人
黒田清隆夫人
森有礼夫人
大隈重信夫人
陸奥宗光夫人
ル・ジャンドル夫人
最後のル・ジャンドルをのぞいて、いずれも学校の歴史の教科書で目にしたことのあるような、明治の著名な政治観である。(ル・ジャンドルについては、たまたま私が知らないだけかとも思うが。)
これも再読である。最初に読んだのは、若いとき。学生のころだったかと覚えている。だが、何が書いてあったか、さっぱり忘れてしまっているので、これはこれとして、新鮮な気持ちで読むことになった。
歴史上の著名人の妻が主な主人公である。そのせいもあるが、山田風太郎の他の明治小説のような、どこまで本当で、どこから虚構なのか、虚実入り交じった伝記的世界が展開するというのではない。
この作品の全体にわたって登場するのが、山本権兵衛と山川捨松。まあ、この二人は、歴史上の人物とはいっても、作品のなかでは、各作品の目撃者であり、語り手的な立場にあるといっていいのだろう。このあたりは、山風太郎ならではの「虚」の部分かと思わせるが、設定としては面白い設定になっている。
時代設定としては、そのタイトルから推察されるように鹿鳴館の時代である。といっても、鹿鳴館の舞踏会が、そう頻繁に登場するということはない。明治の政治家の妻の視点から、明治を描くということで、鹿鳴館の時代が選ばれたという印象である。
女性、それも、明治の政治家の妻……その多くは芸者あがりであるのだが……の視点から見た、明治の時代であり、文明開化の時代であり、なかんずく鹿鳴館の時代である。読んでいくと、幕末から明治にかけての激動の時代を、女性の目で見た物語となっている。
このような歴史の見方もあるのか……と、そのような印象を持つことになる作品である。
この作品、読み終わって感じるのは……他の山田風太郎の明治小説がそうであるようにだが……やはり、「不戦日記」の著者の視点である。歴史を見るまなざしであり、特に激動の時代にあって人間とはどう生きるものなのか、ある意味では冷酷に見つめているところがある。
虚実入り交じった波瀾万丈の大活劇という作品ではないが、山田風太郎の明治小説の世界を堪能できる一冊になっていると思う。
2021年4月28日記
追記 2021-05-06
この続きは、
やまもも書斎記 2021年5月6日
『明治波濤歌』(上)山田風太郎
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