『超空気支配社会』辻田真佐憲
2021-07-01


2021-07-01 當山日出夫(とうやまひでお)

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辻田真佐憲.『超空気支配社会』(文春新書).文藝春秋.2021
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辻田真佐憲の最近の文章……主にWEBに掲載のもの……を編集してある。

第一章 ふたつの同調圧力に抗って−五輪とコロナ自粛−
第二章 虚構の戦前回帰−歴史の教訓をアップデートする−
第三章 プロパガンダの最前線へ−音楽から観光まで−
第四章 総合知を復興せよ−健全な中間をめざして−

それぞれの章について、興味深い。まず、SNSが主要メディアでも無視できないような時代の状況のなかにあって、自分の立ち位置をどう決めていくのか。この考察は、示唆に富む。

私が読んで興味深かったのは、第三章。韓国における竹島の領有権をめぐる、一般国民への啓蒙活動。また、中国における共産党の歴史を観光にするテーマパーク。なるほど、こういう事例のレポートを読むと、日本はいかにも生ぬるいというか、もうちょっとどうにかならないかなと思ってしまう。

全体として、問題は、政治的なプロパガンダが、SNSによって、より大きく拡散していく社会にいることだろう。そのなかにあって、冷静に物事を見極めるのは、かなり困難になってきているのかもしれない。(ただ、自分はSNSを見なければそれで済むという問題では、もはやない。)

プロパガンダというと、昔のナチスドイツのことあたりを思い出す。だが、趣旨は異なるとはいえ、今も、より巧妙化して、反日、中国共産党礼賛のプロパガンダが、堂々と行われているというのは、ある意味で驚きでもあある。だが、これは事実であるとしかいいようがない。(ちょうど、今(二〇二一)、中国では共産党の一〇〇周年を迎えようとして、大規模なイベントが企画されている。)

著者が提唱するのが、ジャーナリズム、評論家の役割。アカデミズムではなく、いわば在野の立場から、調査研究して、総合的な俯瞰のもとに情報発信していく人材の必要を、つよくいっている。この本の場合であれば、先日なくなった半藤一利を事例にあげている。(辻田真佐憲も、半藤一利と同様に、昭和戦前の日本についての著書がある。)

さて、総合的な俯瞰的な知といわれればであるが、ちょうど、最近の話題(二〇二一)としては、立花隆がなくなったことが思い浮かぶ。私も、その著書の多くは、若いころに読んだものである。

それから、ちょっと古いところでは、これはアカデミズムよりといわれるかもしれないが、林達夫のことなどが、思い浮かぶ。

ともあれ、SNSによる言論世界から自由ではありえない現代社会において、自分の考えの方向性を考えるうえで、きわめて参考になる知見をあたえてくれる本だと思う。

2021年6月30日記
[社会]

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