2021-10-07 當山日出夫(とうやまひでお)
中央公論新社(編).『教科書名短篇−科学随筆集−』(中公文庫).中央公論新社.2021
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中公文庫のシリーズである。これまでに刊行になったのは、読んできている。
やまもも書斎記 2020年3月13日
『教科書名短篇−人間の情景−』中公文庫
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やまもも書斎記 2020年3月14日
『教科書名短篇−少年時代−』中公文庫
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やまもも書斎記 2021年6月7日
『教科書名短篇−家族の時間−』中公文庫
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これもこれまでのものと同様に、戦後の中学校の国語教科書に載った文章のアンソロジーである。
収録されているのは、次の科学者たち。
寺田寅彦
中谷宇吉郎
湯川秀樹
岡潔
矢野健太郎
福井謙一
日高敏隆
面白いのでいっきに読んでしまった。読んで思うこととしては、次の二点ぐらいがあるだろうか。
第一には、エッセイとしての面白さ。
「科学随筆」となっているが、どれも一級のエッセイである。読んで面白い。教科書に採録されるぐらいだから、そう難しい話しということではないし、また、長いものでもない。短ければ数ページぐらいである。そのなかに、文章としての面白さを感じる。
第二には、科学ということ。
一般に、「科学技術」ということばがあるように、科学は技術と結びついて語られることが多い。しかし、この文庫に採録の文章は、純粋に知的ないとなみとしての、科学にかぎって話しが進行する。テクノロジーについてのことは、ほとんど出てこない。
これは、中学生むけの教科書ということで、このような選択になったのかとも思われる。人間の知的ないとなみとして、自然と向き合って、何を知りうるのか、それを知るためにはどうするべきなのか、あるいは、逆に分からないことは何なのか……まさに「知」ということについて、誠実に答える文章になっている。
以上の二点が、この文庫本を読んで思うことなどである。
その他、たとえば、有効な数字として三桁あれば現実的に問題はないとする、中谷宇吉郎の文章など、円周率を、3.14で覚えてきたことを思い出して、いろいろと考えることがある。
さて、日本において、中等教育における国語教育が大きく変わろうとしている。これから、この種の科学的な読み物は、どのようにあつかわれることになるのだろうか。
上質の科学エッセイは、子どもにとって、科学へのとびらとなるにちがいない。これからも、このとびらは閉ざさないでいてほしいものである。
2021年10月4日記
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