『浅草紅団 浅草祭』川端康成/講談社文芸文庫
2022-03-17


2022年3月17日 當山日出夫(とうやまひでお)

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川端康成.『浅草紅団 浅草祭』(講談社文芸文庫).講談社.1996
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川場康成を新潮文庫版で読んでいっている。記憶では、確か「浅草紅団」も昔新潮文庫で読めたかと思うのだが、今はない。講談社文芸文庫に入っている。といって人気の無い作品ではないようだ。出たのは、一九九六年であるが、買った本は、二〇二一年の第一七刷である。

川端康成自身は、「浅草紅団」をあまり気に入ってはいなかったらしい。だが、今の目で読んでみて面白い。その面白さは、次の二点にあるだろうか。

第一には、風俗史的な興味。

昭和初期の浅草の風俗が描かれる。特に大きなストーリーがあるというのではなく、幾人かの登場人物の群像劇的なつくりになっている。浅草の人びと、それもどちらかというと下層といっていいのだろう、社会の一般の秩序から下の方にはみ出したような、いわば不良少年、少女たちの生態が生き生きと描かれる。まず、このような人びとの生活がどんなであったか、昭和の始めのころの浅草がいかなる地域であったのか、その興味で読むことになる。

昭和初期の浅草といえば、東京の中心的存在といっていいだろう。関東大震災で壊滅的な打撃をうけた街であるが、それが「復興」する。関東大震災の前から、また、その「復興」の後まで、浅草の街に生きた、人びとが活写されている。

ただ、これもどちらかというならばであるが……東京の下層生活ルポというべき作品の系譜に位置づけられるものかもしれないとも思ってみる。例えば、『最暗黒の東京』などである。

第二には、新感覚派の小説として。

川端康成の作品としては、初期のものになる。文学史的にいえば、いわゆる新感覚派として登場したころの作品といっていいのだろう。そう思って読むせいもあろうが、文章が独特の感覚に研ぎ澄まされている。こういう切り口で、描写するのか……と、ふと驚いて読むようなところが随所にある。川端康成ならではの文章であると強く感じるところがある。

以上の二点が、この本を読んで思うところなどである。

この作品、タイトルだけは若い時から知っていた。が、まとまって読むのは、今回が初めてということになるはずである。なるほど川端康成とはこういう小説を書いた作家なのかと思い、また、昭和初期の東京の浅草の風俗に興味を持ったというのが、読んで思うところである。

ところで、この「浅草紅団」では、「一九三〇年」といういい方がしてある。昭和五年のことである。この当時、西暦で年を表すことは、かなりのハイカラ趣味であったような気もするのだが、はたしてどうだろうか。

2022年3月16日記
[文学]

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