2023年11月17日 當山日出夫
英雄たちの選択 帰ってきた探偵 〓江戸川乱歩 ミステリー復活の闘い〓
この回はなかなかよくできていたと思う。すぐれた江戸川乱歩論であり、探偵小説論であり、読者論につながっていく内容であった。
まず番組のなかで指摘されていたのが、乱歩の時代の作品の読者は、どのような社会階層の人びとであったのか、ということ。大衆小説というが、その読者には、ある一程度以上のリテラシが求められる。具体的にいえば、ある程度以上の学歴が必要になる。では、乱歩を読んだ昭和戦前の読者は、どんな人びとであったのか。これは、アッパーミドルというべき人びとであったろう。
この番組では、一貫して「探偵小説」と言っていた。これは正しい。今日、場合によっては「推理小説」の用語が使われることもあるが、これは戦後になってからのことになるだろう。乱歩が書いたのは、探偵小説である。そして、この探偵小説というジャンルにおいて、何を書いていたのか。これは、狭義の推理小説ではとらえることができない幅広いものになる。「芋虫」は、今の時代、推理小説とは言えないだろう。
戦後、探偵小説復活の時代にあって、乱歩は、新たな作品を書かなかった。これは、探偵小説の読者として、どのような人びとを想定するかということとつながってくる。昭和の戦前から戦後へと時代の変化のなかにあって、読者の嗜好が移ろいやすいものであることを、乱歩は感じとっていたのだろう。
一方、少年探偵団のシリーズを書く。私も子どものころにいくつか読んだかと思う。それよりも記憶に残っているのは、テレビドラマの少年探偵団である。その主題歌は、私と同世代の人ならたぶん、憶えているはずである。ちなみに、浅田次郎は、エッセイ集のタイトルに使っている。「勇気凜凜ルリの色」。
乱歩が見出した作家として名前があがっていたのが、横溝正史、松本清張、山田風太郎、星新一、筒井康隆。それから、仁木悦子だった。仁木悦子は、今ではあまり読まれないかもしれないが、日本における探偵小説の歴史を語る上では、重要な作家である。
分かりやすい平易な文章、多様な価値観をふくんだエンタメ、これを失ってはならないと強く思う。
2023年11月16日記
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