NHKスペシャル「米中対立 日本の“活路”は」
2025-05-20


2025年5月20日 當山日出夫

NHKスペシャル 米中対立 日本の“活路”は

NHKでこういうテーマで番組を作るとして、斎藤ジン、塩野誠、というような人が出てしゃべるというのは、あまりなかったことかもしれない。こういう問題に、大学の教員なとはもう役にたたないということかもしれない。考える視点が違うということだろうが。

見ていて、そう目新しい論点があったということではない……というふうに思った。

斎藤ジンの『世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ』(文春新書)は読んだ(Kindle版)。この本で語られていることとそう変わる内容の発言ではなかった。(これも、本が出てからすぐに見解が変わるということではないだろうが。)

いわゆるトランプ関税については、冷静に見きわめるというのが大方の立場だろう。まあ、いわゆるトランプ大統領が嫌いでしかたがない、いわゆるリベラルの側からは、とんでもない愚策として批判されているようだが。(今になってトランプ関税を批判するなら、もっと前に、ラストベルトの労働者層にうったえる政策提言をすべきであったと思うのだが。)

これがアメリカ国内に向けてどういうメッセージなのか、ということは読み解いておくべきことであろう。輸入品に関税をかければ、物価が上昇する、これはあたりまえのことで、一時的にそういうことがあったとしても、いや、そういう経過をふまえたうえで、アメリカのこれからの産業のあり方として、どういうことを構想しているのか、そして、その目論見は可能なのか、ここが重要であると思う。ここのところを無視して、ただ関税の有無、その割合だけを議論しても、無意味である。

興味深かったのは、アメリカで工場を作って労働者を雇用しようとしても、工場で働く人材を集められない、という話し。今のアメリカは、こうなのかなと思うが、しかし、ここで指摘されたような状況は、これからの中国でも起こりうることとして考えることではないだろうか。

いや、それより前のこととして、中国が製造業で世界でシェアを持っていることは確かなのだが、実際にその工場で働いている労働者たちは、どういう出自で、どういう生活をして、これからどうなるのだろうか……こういうことについて、あまり大きく報道されているということはない。言われるのは、現在の中国の若者の失業率の高さ(政府はその数字を発表しなくなったが、かなり高いと見られている)であったり、大学を出ても就職する先のない学生たちであったり、さらには、そんな中国をあきらめて日本にやってくる人たち、ということが多い。

製造業で、工場の操業がなりたつために必要な、労働者のエトス(と言っておくことにするが)が、アメリカや中国をはじめ、世界の国々で、どういう状態なのか、こういうことについての、基本的な調査研究ということは、どれぐらいおこなわれているのだろうか。こういう観点から、中国の製造業は、これからも大丈夫なのか、と考えてみる必要があるかと思う。無論、将来的な、人口動態ということも重要な要素である。

グローバリズムが進行すれば、お互いに依存しあうから、戦争にはならない。これが幻想であったことは、ロシアのことを見て分かることである。グローバリズムといっても、ただ平面的なネットワークではなく、重層的なものとしてイメージしておくことになる。重層的な物流や金融のネットワークの、どの層をどのようにコントロールできるのか、できないのか、ということを考えなければならないことになる。

2025年5月19日記

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