NHKスペシャル「イーロン・マスク “アメリカ改革”の深層」
2025-08-14


2025年8月14日 當山日出夫

NHKスペシャル イーロン・マスク “アメリカ改革”の深層

トランプ政権のもとでのDOGEのこと、イーロン・マスクのこと、テックライトのこと、これらがあまり整理されずに詰めこまれていると感じる。ここは、どこかに焦点をしぼった方がよかったかもしれない。

DOGEのやっていることは、かなり乱暴なことであると一般には日本で報じられている。見ているかぎり、そのような印象が強いことはたしかである。しかし、そのすべてが否定されるべきことかどうかは、分からない。肥大化しすぎたアメリカ政府の機構を、よりスリムなものにしていくべきだ、ということは、理解できるかと思うのだが。

番組の方向としては、DOGEにかかわっている人物として、シリコンバレーの起業家たち、ということを言いたかったのかとも思う。その代表として、イーロン・マスクが登場していたことになる。

描き方として、現在のトランプ政権は、お金持ち優遇政策をとっている……ということにはなっていなかった。このあたりは、短絡的にならず、その背景にある、時代の思想の流れを見ていたと感じることになる。

新しい、シリコンバレー長者というような人たちが、どんな価値観、考え方、思想を持っているのか……ということが、本当は一番重要なことであるかと思う。そのうちの一部が、たまたま、現在のトランプ政権に与しているという理解でいいだろうか。

テクノロジーの進歩に未来を構想するというのは、別に、トランプ政権であるとか、共和党であるからということとは、異なる次元のことであると考えるべきだろう。一般に理解されているところでは、テクノリバタリアンという人びとは、規制緩和はない方がいいことになるし、(テクノロジーについての)才能さえあれば性別や人種など関係ない、ということで、どちらかというと民主党より、リベラリルより、ということになるかと思っている。

テクノロジー至上主義という考え方を持っているとしても、決してまとまっているわけではなく、場合によっては、現在のトランプ政権に接近するような人たちもいる、ということでいいだろうか。

昨年のアメリカ大統領選挙のとき、途中から参加することになったハリス候補が、いきなり多額の選挙資金を調達できたのは、富裕層からの支持があったからである、とはそのころ言われたことである。

まあ、要するに、民主党であれ共和党であれ、トランプであれハリスであれ、利用できそうなら利用する、というだけのことであろう。

リベラルな価値観をもとめていくと、権威主義になる……逆説的ではあるが、しかし、こういう考え方をかならずしも否定できないことは、たしかなことであろう。

番組の中では言っていなかったが、国家の統治はどうあるべきか、ということの議論としては、プラトンの『国家』までいっきにさかのぼった議論になっている。テクノロジーは、民主主義を推進するのか、それとも、民主主義は意味のない制度なのか、これは、まさに冷静に考えるべきテーマである。AIの進歩が、人間にとってどんな意味があるのか、哲学的な問題であると同時に、さしせまった社会と国家のあり方についての問題でもある。

既存のエリートへの憎悪……それは、官僚制であり、大学であり、ということになるが……これもまた、人類史的な視点から考えるべき大きな課題ということになる。

『アメリカの新右翼−トランプを生み出した思想家たちー』(井上弘貴、新潮選書)を読んだ目で見たということもあるが、いろいろと面白かった。やはり、テレビ番組として作ると、筋書を単純化(民主主義の否定者としてのテックライト)してしまうということはあるのだが。(民主主義を否定するのは、テックライトに限らずレフトも似たようなものだろう。民主主義のような手間暇のかかる制度など、ふっとばして考えるのがテクノロジー至上主義であるといっていいだろう。)


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