「秘された部隊 沈黙の戦後」
2026-07-29


2026年7月29日 當山日出夫

「秘された部隊 沈黙の戦後」

NHKBSでの放送である。特に、BSスペシャルとかの枠ではなく、単独に作ってある。これは、何か意図があってのことなのだろうか。

だが、戦争(太平洋戦争、大東亜戦争)のことをあつかった番組としては、出色の出来である。

満州の731部隊のことをあつかっている。その関係者が写した写真が、古書店で見つかったということからはじまって、731部隊に所属していた人やその遺族を取材している。

何よりもいいところは、戦争犯罪とか、善悪、ということを保留して、731部隊で行われていたこと、そこにかかわっていたことを、どのように思って、戦後を生きてきたのか、それぞれの人の思いを、等しく尊重していることである。

印象的なエピソードは、石井司令官について、大恩人……貧しくて医学を勉強できなかった若者が、石井先生のおかげて医者になることができたことを感謝している……と記したものがあること。えてして、石井四郎は、極悪非道、医師にあるまじき大悪人、と評価されることが多く、その事跡をたどること自体さえタブー視されがちである。

731部隊の活動についても、その時代の戦争のあり方から考えて、生物化学兵器の使用は、十分にありうることであり、(番組では言っていなかったが、第一次世界大戦では実際に毒ガスが使用されている)、それに対する防衛を考えることは、使い方を考えることによってしか知見を得ることができない、という、(軍事的には)きわめて合理的な、判断があったことに言及している。これは、戦争におけるどのような兵器についてでも、いえることである。核兵器や生物化学兵器の非人道性ということとは別に、冷酷な戦争の論理である。その威力を知ってこそ、それに対する批判も成立するということは、どうしようもない矛楯した皮肉なことだが、まずこういうものだと、認めざるをえない。

紹介されていた話しは、どれも興味深い。731部隊では、完全に分業制になっていたことや、普通と家族の隊員の生活があったこと……運動会や盆踊りがあったり、神社があったり……は、逆説的に、戦争とは、このようにして行われるものであるという印象になる。

自分が731部隊にかかわっていたことを、多くの人は、隠しているか、多くを語らなかった。それぞれに、非常に辛い体験をしてきたことになる。今のことばでいえば、PTSDとなる人も多かった。それに耐えて、その後の人生をそれぞれに歩んだというべきだろう。沈黙した人もいる一方で、その実態を調べて残そうとした人もいる。どのような態度であるべきか、そこに(現代の価値観から)善し悪しの判断は容易には下せない。

この番組では、写真などについて画像処理でぼかすことをしていない。顔が分かる。これは、731部隊にいたからといって、それが、戦争犯罪者ということではないというメッセージになっていると同時に、この番組を作ったスタッフの覚悟を感じることになる。番組で見せた映像には、責任を持つという覚悟がある。

731部隊についての番組であるが、人間とはどういうものなのかということについて、いろいろと考えることになる。これは、すぐれたドキュメンタリー番組である。


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