『あ・うん』向田邦子
2021-01-14


2021-01-14當山日出夫(とうやまひでお)

禺画像]

向田邦子.『あ・うん』(文春文庫).文藝春秋.2003(文藝春秋.1981 文春部の.1983)
[URL]

続きである。
やまもも書斎記 2021年1月11日
『夜中の薔薇』向田邦子
[URL]

向田邦子の小説である。連作短篇を集めた長篇、あるいは、中編といったところだろうか。文庫本の解説を書いているのは、山口瞳。それによると、向田邦子は、この作品で直木賞をとったかもしれない、とある。結果的には、『思い出トランプ』で受賞ということになったのだが。

いい作品だと読んで感じる。このような、爽涼感のある小説は久しぶりという感じがする。しかし、描かれている内容は、どちらかといえば、暗く、重い。

仙吉と門倉の友情。その家族。出てくる登場人物は少ない。その少ない登場人物の、なんとも奇妙な交流のあり方、しかし、どこにでもあるよう家族の情感といったものを、しみじみと描いている。

その一方で、この作品は、「時代」を感じさせる。舞台となっている時代背景としては、昭和戦前の日中戦争のころである。まだ、太平洋戦争になるまえの時期という設定である。その時代の雰囲気というものを、作品の行間に感じ取ることができる。

そして、このような時代設定でなければ成り立ち得ないような、すじだてでもある。このあたりの微妙な感覚が実にたくみであると感じる。この小説が現代(向田邦子の生きた時代)であったとしたら、また別の作品になっていただろう。

向田邦子の作品の多くは若いときに読んだと思っていたが、たぶんこの小説は読んでいない。もう忘れてしまっている。だが、後書きにでてくる「目習い」ということばは、向田邦子の書いたもので覚えたという記憶がある。はて、この小説ではない、何か別の文章でだったのだろうか。

向田邦子は、ある意味で上手にその人生を終えたひとでもあると思う。しかし、このような作品を読むと、もう少し生きて小説を残してほしかったと、深く思うのである。

2021年1月7日記

追記 2021-01-15
この続きは、
やまもも書斎記 2021年1月15日
『女の人差し指』向田邦子
[URL]
[文学]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット