相変わらず長屋に住んでいるおサワが、おトキのもとを引っ越し祝いに行く。花を持っていくのだが、おトキの家に立派な花瓶に綺麗な大きな花が活けてあるのを見て捨ててしまう。おサワは、おトキが別世界に行ってしまったと感じる。二人が別れるとき、橋を渡ったところで、おサワが行ってしまい、おトキは橋を渡りきらずに取りのこされる。これは、うまい演出である。橋は、ある世界と、別の世界をつなぐ通路である。民俗学的にいえば、こういうことは常識的な知識である。天国長屋とおトキの新しい松野の家は、川を渡らなければいけない。川の向こうに行ったおトキ、残されたおサワ、これをはっきりと象徴することになっている。
だが、おサワも、小学校の先生であり、この時代であれば、十分な社会的地位のある女性といっていいと思える。しかし、給料は、まったく桁が違う。二桁違うぐらいである。つまりは、御雇外国人教師であるヘブン先生が、いかに高給をもらっていたか、ということになる。(その後、熊本に行って倍になり、東京に行ってさらに倍になる。)
ヘブン先生は、錦織と中学で話しをしているとウソをついて、実は、山橋薬舗に行っていた。それを、おトキは見つける。このなりゆきも面白い。新しくやとった人力車夫が、いわくありげな人物なのだが、おトキに話しをしてしまう。
山橋薬舗は、西洋料理の店をやっていて、ヘブン先生は、そこで食事をしていた。おトキは、ヘブン先生に、なぜウソをついていたのかと問い詰める。
ヘブン先生は、つかれた、と答える。日本人らしくあることを期待されることに疲れる。それはそうだろうと共感する。おトキとしては、本当のことを言ってほしかった、ヘブン先生の気持ちに気づかなかった自分も悪いと思う。ヘブン先生としても、松野家の家族のことを思って、本当のことが言えなかった。
ヘブン先生は、ギリシャで生まれたのだが、母親と幼くして別れている。このことは、県知事や錦織の前で話したことである。しかし、おトキたちは、知らなかったことでもある。(これまでの展開を見ると、ヘブン先生は、自分の過去のことを、すべておトキに語っているということは、なかったと思う。このあたりのことは、微妙かなとも思うが、どうだろうか。)
ともあれ、ヘブン先生にはその過去のことがあり(生いたちからのことであり、マーサとの結婚のこともある)、同様に、おトキは過去のことがあり(雨清水の家のことであり、銀二郎のことである)なのだが、松江で一緒に生活するようになったからには、それぞれの生活習慣や好みを尊重して、仲よく暮らすようにする……こういうところを、おとしどころとして作ってある。これはこれで、このドラマの作り方としては、理解できるし、上手く作ってあると感じるところでもある。
簡単に、愛し合っていればそれで何でも克服できる、という安直な作り方になっていないということは、私としては、評価したいところである。
山橋薬舗での食事のことから、小泉八雲が使っていた机(目の悪い八雲のために特注で作った、高さのある机)のことが、自然な流れでつながっていた。
金曜日になって、おトキはようやく、ヘブンさん、と呼ぶようになった。そして、おそらく、朝ドラの中では、最も印象に残るキスシーンでもあった。
2026年1月16日記
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