『虎に翼』「女房に惚れてお家繁盛?」
2024-09-01


このドラマでは、都市部のホワイトカラーの仕事しか、仕事として認めていないのではないかとも思われる。新潟の三條の裁判所の事務をしていた小野は、働く女性としては描かれていなかった。ライトハウスの仕事も、働く女性として描かれていたとは感じられない。バスの車掌はその当時は女性の仕事だったはずで、女性が社会に出て働く重要な意味があったはずだが、そうとは認識されていなかった。東京地裁の判事補(これはれっきとしたエリート専門職である)の秋山になって始めて寅子以外の働く女性が登場したことになる。これはこれで、職業差別の意識があるとしかいいようがない。正しさを主張することの裏側にひそむ差別意識というものを、はからずもあぶり出すことになっている。

ホワイトカラー、専門職における女性の進出は、たしかに苦労はあったことはたしかである。が、その苦労とは、まず、機会を得ること、そして、男性と同等の仕事が出来ることを証明してみせることだったはずである。しかし、このドラマでは、その肝心の仕事の場面がほとんど出てこない。

穂高先生が久しぶりに出てきていた。たぶん、作者、演出の意図としては、かつて寅子は、こんなひどいめにあったということを印象づけたいねらいがあったのかとも思うが、はたしてどうだろうか。

私の記憶している範囲で整理してみる。

寅子は、弁護士の仕事をしているときに、優三との間に子どもができた。

その妊娠が分かったとき、穂高先生は、その身をいたわるように言った。妊娠している女性に対して、身の保護と無事な出産を願うのは、今も昔も、そして、おそらく世界のどこでも、共通していることだと、私は思う。私の記憶では、もう法曹の道はあきらめて、母親として子育てしなさい、とは言っていなかった。

勤めていた法律事務所の雲野弁護士も、出産後の復職を認めていた。

さらに、寅子の猪爪の家……そこに寅子と優三は住んでいた……には、母のはるも、花江もいて、育児の手助けをしてくれる要員に困ることはなかった。父親の直言も、決して、結婚して子どもができたら働いてはいけないなどと言う人間ではなかった。

記憶で書いているのだが、大筋このようだったはずである。

なのに、一方的に穂高先生に逆らったのは、寅子である。

まあ、ドラマの作り方としては、かつての恩師を敵にしてボス戦を戦って倒して、次のステージにということになるのだろうが、そう設定するには、あまりにも穂高先生を善良で良識的に描きすぎたということになる。はっきりいってドラマの人物設定のミスである。エンターテイメントの常道の設定のはずだったのが、下手だったということである。

その寅子が、裁判官になって後輩の裁判官の秋山にいろいろと言っていたのだが、かつての寅子のことを思ってみると、どれも説得力に乏しい。

当時の裁判官が女性で妊娠した場合、産前産後の休暇は認められていた、とナレーションの説明はあった。寅子は、女性の裁判官のために桂場に働きかけることになるが、その結果がどうであったか、まったく出てきていなかった。具体的に、制度がどのように改善されたのだろうか。この時代、寅子と秋山の時代には、まだ間に合わなかったが、その後の制度の改善があったならば、それはきちんと言っておくべきことである。でなければ、寅子の努力の意味がわからない。


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